「アトス?ちょっといい?」

鈴が転がるような声が澄んだ空気に響く。

「この配置なんだけど・・・」

銃士としての会話。

「・・・そうか、流石アトスだね」

納得したように、首を傾げる癖。

ほんの少しだけ微笑みを浮かべると、踵を返して仲間達に指示を与える。

見慣れた風景だが、今日のアラミスは何かが違う。

その勘は当たりノエルの日の朝、アラミスの姿は無かった。




**********

「アラミス、どこに行っちゃったんだろうね」

ダルタニアンの何度目か判らない呟きが控え室に響く。

「そのうち戻ってくるさ。よくあることだ」
「よくあること?」

ポルトスの返答にダルタニアンは驚く。

「まぁ、な。ふらっと居なくなることが何度か」
「どうして?」
「さぁな。聞ける様な雰囲気じゃないんだよなぁ」

これまでの数回の失踪後、戻ってきたアラミスは近寄り難い雰囲気を纏っていた。
うっかり触れてしまった鈍感な銃士は、涙目でポルトスに救いを求めてくることになる。

「あのビリビリとしたアラミスも悪くはないぞ」
「そんな風に思えるのはポルトスくらいだよ。想像すると・・・怖い」
「2,3日すれば元に戻る、心配いらないさ」
「そうかな。アトスもそう思う?」

矛先を向けられ、曖昧な笑みを浮かべる

「さあ。もう二度と戻ってこないかもしれないが」
「え!嘘だろ」
「私にはわからないよ」
「そんな〜・・・」

落ち着きなく、部屋の中をうろうろし出したダルタニアンを横目に
最後に見たアラミスの蒼の瞳をぼんやりと思い出していた。




*********

灯りは付いていない。
アラミスの家の前を通るが、しんと静まりかえったまま人の気配もない。

見上げたまま暫く、星の瞬きの隙間からふわふわと雪が降り始めた。
最初に居なくなった時は、初雪とともにアラミスは戻ってきたことを思い出す。

"どこで何をしていた?"
"・・・"

あの時もアラミスは何も答えなかった。
おそらく、これからも。

溜息を一つ付くと、白い息が空に消えていく。
帰路につく足が重い。
今日は酒を飲んでも眠れないかもしれない。
その存在が自分の中で恐ろしく大きくなっていることを
改めて思い知らされ、打ちのめされた気持ちになる。

逆はどうなのか?
アラミスにとって私はどのような存在なのか。
そんなことを考えながらこれから飲む酒の味を想像すると
ますます、鬱々した気持ちになってきた。

やがて見えてきた自宅の前できらきらと何かが光っている。
目を凝らすと、ちょこんと小さなウサギのようにしゃがんでいる
アラミスと目が合った。




**********

「何をしてたんだ?こんなところで」
「ん・・・アトス帰ってこないかなって」
「夜勤があったんだ」
「そう」

綿毛のような雪が金髪から舞い落ちる。
幼い時にどこかで見た絵画のようだと思わず見惚れていると
当の本人はさっさと立ち上がり、立ち去ろうとする。

「明日は勤くから。迷惑かけたね」
「アラミス?」
「おやすみ」
「待て、アラミス!」

思わず腕を掴んで引き止めると、驚いたように振り返った顔は戸惑いの
色を浮かべ、非難するように捕まれた腕を振り解こうとする。
服の上からでも身体が冷え切っているのことが判り、いつからここに
居たのかと胸が熱くなった。

「私を待っていたのか?」
「・・・」
「・・・私の顔を見たかった、とか」
「・・・違うよ」
「ではこの数日、どこで何をしていたのか聞いてもいいか?」
「・・・困る」

短く否定的な言葉を重ね続けるが、もう掴まれた腕を振り払う様子は無い。
そっと離すと、そのまま手の平を合わせて、指を絡ませるように繋いだ。

抵抗もせず繋がれた手は冷たく、逆の手でそっと頬に触れると
アラミスはびく、と後ずさった。

「そんな風に触れられたら困る・・・」
「なぜ?」
「困る・・・」

胸に満ちていく想いが溢れて、耐えきれなくなる。
両の手で白く冷え切った頬をゆっくりと包むと、逸らしていた視線が合う。
蒼の瞳がゆらめいて、訴えるように唇が動く。

だがそれは一瞬で、何かを振り切るようにアラミスは身体をすっと離した。

「ごめん。忘れて」
「何を?」
「・・・今の僕」

悔いるような言葉を無視してもう一度、柔らかい頬を両手で包む。

「これ以上は触れない。それならいいか?」
「アトス・・・」

本当は身体を抱き寄せてたい衝動を抑え、赤く染まる頬をただ触れ続ける。

「一つだけ、約束してほしい」
「・・・何?」
「私に黙って居なくならないでくれ」
「・・・それは友人としての言葉?」
「・・・」
「違うの?」
「・・・そう。仲間としての言葉だよ」

搾り出す言葉はお互いの関係を確かめるように、雪降る空に消えていった。


直線上に配置


アラミスサイド



アトアラの醍醐味は「ひっつきそうでひっつかない二人」だと思ってるので
寸止めシーンを書いてみました。

時期は首飾り〜鉄仮面の間のノエル。



アラミスたびたび無断欠勤じゃねーか!というツッコミはなしでおねがいします















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