<舞踏会>

鉄仮面事件が解決し、パリに平穏が訪れてしばらく。
僕ダルタニアンと三銃士もそれぞれの休暇を終え通常の勤務に戻っていた。
平穏なのは良いことだとわかってるんだけど、つまらない。
ベルイールで鉄仮面を追い詰めていた時の、あのワクワク感を思い出すと
ついついため息が出てしまう。

「ねぇアトス〜、ポルトス〜、退屈だね。何か楽しいことないのかな〜」
「何言ってるんだ。俺たちが退屈なのはパリが平和な証拠だろ。」
「そうなんだけどさ〜、何だか最近体がなまっちゃって・・・」
「じゃあダンスの練習でもしたらどうだ?」
難しそうな本に視線を落としながらアトスが言う。え?ダンス?剣の練習じゃなくて?
僕が閉口してると、アトスは意味ありげな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「貴族の男子のたしなみとして必要だろ?こういう平穏な時にこそ、書を読み
所作を身につけ、どこに出ても恥ずかしくない銃士になるための教養を磨く時なのだよ
ダルタニアン殿」
「なるほどな〜、さすがアトスだ。いいことを言う!」
「そして夜はパリの美しい女性達と愛の睦言を交わし、朝を迎える。これも
平穏な今だからこそ出来ることだと思わないかい?」
「確かに。睡眠不足では事件の解決もできまい」
「ぼ、僕にはコンスタンスが居るから!」
「そのコンスタンス殿を満足させるためにも、鍛錬が必要だと思うが・・?」
「何の鍛錬さっ!そんなもの必要ない!!」
ついにアトスとポルトスが笑い出した。いつもそうだ、俺のこと子ども扱いして
からかうんだから。まったくもう・・・
そういえばこういう時いつも助け舟を出してくれるアラミスが居ない。

「ねぇ、アラミスは?今日は出勤だろ?」
「剣術指導で前庭だろう?ほら」
と言ってポルトスが窓のほうを見る。
そっか、と外を見ると、午後の日差しを受けて金髪をキラキラさせている彼女が見えた。
ベルイールで秘密を知って以来、彼女を男として見ることは僕にはできなくて、だから
剣術指導とはいえ、後輩銃士達の腰付きを直したりする姿に何だかドキドキしてしまう。
そしてそれ以上に、アラミスの白い肌や瞳の綺麗さに見とれてしまっていると、
アトスがいつの間にか僕の後ろに来ていた。
「何を考えているんだ?」
その声に思わずビクッっとしてアトスを見ると、意地悪な笑みを浮かべて僕を見ていた。
自分の頭の中を見透かされた気がして、顔がかぁっと赤くなるのを感じる。
アトスは益々意地悪な笑いを浮かべて、下にいるアラミスに声を掛けた。
「おい、アラミス!剣術指導はそろそろ切り上げて次はこちらのダルタニアン殿にダンスを
指導して頂けないかな?」
な、何を言い出すんだよアトス?
アラミスは不思議な顔をしてこちらを見る。
「ダンス?」
「そう、貴族のたしなみとして必要だという話になったのだ」
「ふ〜ん・・・、まぁいいけど。じゃあ、ちょっと待ってて」
そういって彼女は後輩銃士に何か声を掛けに行った。

*****

僕らのところにやってきたアラミスは、特に機嫌が悪いわけでもなく、
疑問を疑問としてアトスに尋ねた。
「どうして僕なのさ。ダンスなら君でもポルトスでも教えられるだろう?」
「まぁな。しかし私やポルトスはダルタニアンより背が高いからな。できれば君のほうが
ダルタニアンも本番を想定して練習に励めるというものだろう?」
「ふ〜ん・・・」
そう言って彼女は僕を見上げる。上目遣いで探るような顔をされて思わず目をそらす。
いつの間にか追い抜いた背が(それに気がついた時はとても嬉しかったのに)
今はとんでもなく恨めしい。
違う、僕が仕組んだんじゃないっと小さく彼女に言い訳すると、わかってるよ・・と
何かを悟ったような口調で、僕に優しく言ってくれた。
「で、ダルタニアン、君のダンスの経験は?」
「一度、コンスタンスに遊びで教えてもらったけど・・・」
「じゃあもう一度基礎からだな。なに、アラミスのダンスは我々銃士の中でも郡を抜いて
優雅なものだ。彼の指導ならば上達も早かろう」
どこから持ち出したのか、アトスは楽器まで構え、、ポルトスもそれにうんうん、と頷く。
僕は仕方なく、アラミスの手を取り、腰に手をまわしてアトスが奏でる曲に合わせて
ステップを踏み始めたんだけど・・・

「おい、ダルタニアン。動きがおかしいぞ。もっと相手をリードするように動くものだ」
「それにきちんと相手の顔を見つめるんだ」
そ、そんなこと言ったって、腰に回した手にこれ以上力を入れたら彼女の柔らかさを
ますます意識しちゃいそうだし、剣術指導でうっすら汗ばんで赤らんでいる彼女の顔を
こんなに近くで見つめ続けたらどうかなっちゃいそうだよ・・・
そうやってぎこちない動きをしている僕に、彼女はすっと体を摺り寄せてきた。
その動きに僕の心臓は跳ね上がり、体中が火照る。ど、どうしたの?とアラミスの顔を
見ると潤んだ瞳をした彼女が僕にそっと耳打ちした。
「・・・・・」
その一言で頭に血が一気に昇り、不覚にも鼻血を出して倒れてしまった。

*****

「まったく、アトスもポルトスも人が悪いよ」
「人の悪さではお前が一番だろう。可愛いダルタニアンに何を耳打ちしたんだ?」
「それは内緒」
意識の向こうで3人が話しているのが聞こえる。
「この坊やを一人前の"男"にするのも我々の大事な仕事だからな」
「僕はダルタニアンに君達みたいな遊び上手にはなって欲しくないんだけどな」
「銃士隊一の色男が何を言ってるんだ、アラミス殿」
「それって嫌味?その色男の僕に色仕掛けさせるなんて何考えてるのさ」
え、どういうこと・・?と身じろぐと、自分を包む柔らかさに気がつく。
どうやら僕はアラミスに膝枕されているらしい。その心地よさにもう少し、
気を失っているフリをすることにした。
「しかし、まさか卒倒するとは思わなかったよ」
「そうだな、アラミスくらいが最初の相手としては丁度いいと思ったんだがな」
「アトス、それどういう意味?」
「さぁ?、自分で考えてくれ」
「じゃあアラミス、ダルタニアンのことは頼んだぞ。俺達はもう行くから」
「え、行くってどこに?」
「平穏な日々、勤務後に行く先を聞くほど野暮ではあるまい、色男殿」
「はいはい、好きにしてくれ。僕はダルタニアンが気がつくまでこうしてればいいんだね」
ふれくされた彼女の声と、部屋を出て行く男二人の足音が消えていった。
僕の中に何だかメラメラと闘争心が沸いてきた。
そういうことならアラミスをモノにしてやる。僕だってそういうことできるんだと証明してやる!
柔らかいアラミスの感触を楽しみながら、まずこの後、どうやって目が覚めたフリを
しようかと僕は考えを巡らし始めた。


直線上に配置

表向きはダル×アラミス。
またの名を黒ダル成長記第1章。

しかし裏タイトルは「自分の女をあてがって楽しんでるアトス(最低・・・**;)」
と言いつつ一番黒いのはポルトスだったりするのかも?
何にしろこの話の二人、ちょっと性格悪すぎますね。
アラミスも何考えてるのかわかんないし・・・

ちなみに・・・

アラミスの「・・・・」な部分は好きな台詞を入れてお楽しみください。
ってか、雪華には思春期な男の子が鼻血吹き倒れる囁きは
想定できませんでした(−−;





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