<約束> 「ねぇ、頼むよ〜。本当やばいんだよ〜」 「今日が夜勤なことは前からわかっていたことだろう?」 「それが俺、うっかり一日間違ってコンスタンスと約束しちゃったんだよね」 「何だそりゃ」 「お願いポルトス!今日の約束だけは守らないと本当にやばいんだって」 「いや〜、悪いんだが俺も約束してるご婦人が居るんだよ・・・」 「そんな〜・・・」 そんな二人のやり取りをアラミスは黙って見ていた。 そろそろ陽は沈み始め、恋人達の時間を彩っていくようだ。 待つ人の居ない自分には何の問題もないのだが、夜勤を命じられる度に親友達が 渋い顔をしたり困った顔をして周りに助けを求める様子を羨ましく思っていた。そして・・・ 「ねぇポルトス!アトスは?アトスは空いてるかな?」 「いや〜、今日は女の所に行くんじゃないか?」 ちくりと胸が痛む音。 「そうなんだ。アトスもか〜・・・本当にどうしよう・・・」 そう、アトスには夜を共にする女の人がいる。 それに気が付いたのはいつだったか、いつもと違う香りが彼からすることがあって。 当然と言えば当然なのだが、そんな彼を正視できない自分が居た。 その時、控え室の扉が開いた。 「さっきから何をもめてるんだ?外まで聞こえてきてるぞ?」 「アトス〜・・いや、今日の夜勤のこと俺勘違いしててさ・・・」 「何だ、コンスタンス殿と約束でもしてしまったのか?」 「うん。実はそうなんだ・・・」 「だったら私が代わってやるから、早く帰ることだ」 「いいの?だってアトスも予定があるんじゃないの?」 「ああ、それなら使いを出すから大丈夫だ。今日の夜勤の相手は誰だったかな?」 「僕だけど・・・」 そう言ってアラミスはアトスを見る。 彼はまるで仕立て屋との約束を断るかのように軽い調子だ。 彼にとって女との約束はその程度のことなのだろうか? それともその程度の女だということだろうか? そろそろ出ないと間に合わないな、と控え室を出て行くアトスの後を追いながら、 もし、約束の相手が自分だったら彼はどうしたんだろう、と考えながら、 それでも嬉しい気持ちを抑えている自分がいた。 |