<香水> 「アトス〜、女モノの香水の匂いするよ?」 ダルタニアンの言葉にアラミスはカードを切っていた手を止めた。 「甘ぁい匂いだね。」 「ん、ああ・・・」 「昨日、誕生日だったもんね。女の人と一緒だったんだ?」 「いや、まぁ・・・」 「ね、アトスの恋人ってどんな人なの?」 「あ〜」 言葉を濁すアトスの代わりに、アラミスはにっこりと笑うと、 その肩にじゃれるように寄し掛かり答えを返した。 「アトスには100人の女がいるから、いちいち覚えてられないんだってさ」 「ひ、100人!?すごいね」 「そ。いい身分だよな〜」 「え〜・・・じゃあ前にルーブルで二人で居た婦人が恋人ってわけじゃないの?」 満面の笑みを湛えていた顔がぴくりと反応し、 その下にあった肩がびくりと揺れた。 だがそのことに気が付くことなく、のん気に二人の銃士は盛り上がり始めた。 「あ〜、俺も見た見た。」 「あ、ポルトスも見た?綺麗な人だったよね」 「あの婦人、アトスと同じ香水をハンカチにつけて持ち歩いてるらしいぞ」 「え、そうなの?」 「せつないよな〜」 「アトスの香水かぁ。俺も同じの付けたらモテるかな?」 「それはちょっとなぁ・・・」 「じゃあアラミスみたいに爽やかな感じのならどうかな?」 「そうだなぁ・・アラミスはどう思う?」 話を振った先の金髪の銃士は、変わらぬ満面の笑みを湛えたままゆっくりと答えた。 「どうだろう?僕にはわからないな。 それよりポルトスとダルタニアン。 そろそろ出掛ける予定じゃなかったかい?」 爪と牙を隠した猛獣が悠然と紡ぐ言葉に二人は、 ああ、そうだったそうだった、と嵐から逃げるようにそそくさと部屋を後にした。 ***** 「これはお前の匂いだろう?」 「ああ、そうさ!わざわざ女物の香水まで付けて君を待ってた自分が馬鹿だった!」 「嬉しかったよ。私が贈ったものだろう?」 「・・・誰?」 「え?」 「二人で居た御婦人って誰?」 「いや、それは・・・」 「・・・いいけどね。君が誰と居ても。天下の銃士隊の、しかも三銃士のアトス様だもんね!」 つん、とそっぽを向きカードを再び切り始めた横顔をじっと見つめる。 甘く柔らかな香りに包まれた昨夜を思い出し、ふっとアトスの表情が緩んだ。 「・・・何ニヤついてるのさ?」 「ん?妬かれるのも悪くないなぁと思ってな」 「何だよそれ?」 「妬くのは私の役目かと思ってたからね」 「・・・誰に?」 「さぁ?」 「どうしていつも君は・・・!」 言い掛けた唇に、唇が重なり、言葉を塞ぐとそのまま柔らかな桃色を優しく啄ばむ。 やがて名残惜しそうに離れると、蒼の瞳を覗き込み囁いた。 「また、あの香水、つけてくれるか?」 「・・・いいけど」 「嬉しいよ」 「・・・ ・・・ ずるい」 「ん?」 「何でもない!」 アトスからするりと逃げ出し、火照る頬を抑え大きく息を付く。 アラミスはもう一度にっこりと笑みを浮かべると振り返った。 「・・・で、御婦人って誰なの?」 「・・・・・」 |