<決意> 「一度心に決めたことは、そう簡単に諦めてはいけないよルネ」 「お父さまぁっ、だって・・・」 「馬に乗れるようになりたいと言い出したのはルネだろう?」 「だってこのお馬、ルネの言うこと全然聞いてくれないんだもん!」 「そのようなことを言って、お父様を困らせてはいけないわ」 「だってお母様、お尻が痛いの・・・」 ああ、これは・・・。まだ私は幼くて、お父様もお母様も生きていらっしゃって幸せだった頃。 馬に乗れないからと泣くことを許された頃の・・・夢? 「また眠ってしまって・・・いたの?」 独り言をつぶやいた後、窓際から入る日の赤さに夕刻であることを知る。 あの日、あの嵐の日に彼を亡くしてからずっとこうだった。夢なのか現実なのかわからない 時間ばかりが過ぎていく。早くに亡くした両親、かわいがってくれた乳母、初めての舞踏会で 出会った青年貴族、いろんな人がルネに笑いかけ愛してくれていた。 なのに・・・彼には出会えない。夢でさえ会うことができない。 どうして夢にすら出てきてくれないのだろう。どうして? 悲嘆にくれるうち、彼女はまた夢の住人となる。 「神に召された者は愛する人の夢の中へは行くことを許されるのだよ、ルネ」 「そうなの、司祭様?お父様とお母様は昨日ルネの夢に出てきたわ!」 「それはよかったね。二人はどんなご様子だった?」 「とても幸せそうに微笑んでいらしたわ」 「心安らかに召されたんだね。恨みを持って亡くなった者は神の御許には 行けないのだよ。だから愛する者の夢の中に行くこともできないんだ」 あれは・・・いろんなことを教えてくれた司祭様?少し前に亡くなったと聞いたけど・・・ 穏やかな春の風景の中、司祭様も笑っていらっしゃる。 司祭様も心安らかに神の御許に行けたのね。 その時、急に景色が嵐へ変わる。雷が鳴り、そして血の雨が降る。 "ウラミヲモッテナクナッタモノハ・・・" "ユメノナカニ行くことハデキナイ・・・" 「フランソワ!!」 悲痛な自分の声で目が覚める。 ああ、そうか、だから彼は夢に出てこれないのだ。神の御許に行けず苦しんでいる。 彼の恨みを晴らさないといけない・・・。恨みを晴らす・・?仇を討つ・・?私が? 「仇を討つ・・・」 声に出してみると途方もないことに思えた。けれど、やらなきゃ・・・私がやらなきゃ・・・! 「一度心に決めたことは、そう簡単に諦めてはいけないよルネ」 お父様の声が心に響く。 「フランソワ、私があなたの仇を討つわ!」 方法も何もわからない。自分に誓うことしか今はできない。けれど心に決めた。 ------ ルネがノワジーから姿を消したのはそれからすぐのことだった。 |