「今日は御婦人方、気合入ってるな〜」
「まぁ、あの方が出席されるとあれば、な」

警護に付く銃士の面々は口々に、噂の方の事を話題に出しているようだ。
かの公爵が参加されることになり、宮殿の舞踏会は普段とは比べ物に
ならないような活気に包まれていた。

主役は黄金の花びらを撒き散らかすように、喧騒の中心で微笑みを浮かべている

「蜜に群がる蜂のようだよなぁ」
「その例えは・・・どうなんだ」
「俺には公爵の体から甘い蜜が溶け出しているように見える」
「何でも食べ物に例えるのは止めろ」

アトスとポルトスが話している横で、ぼんやりと話題の人を見る。
確かに、周りを惹きつけて止まない華やかさがあるのだろうな、と思う。
けれど僕は、あの胡散臭い笑顔が苦手であまり関わり合いになりたくないなと思う。

とは言っても、公爵が王妃様のお気入りである以上言葉を交わさない訳にいかない。

「此れは銃士隊のアトス、ポルトス、アラミスです」
「そう、宜しくね」
「宮殿の警備はこの3人を中心に行いますので、何かご相談があれば・・・」
「ふ〜ん、まぁ頼りにしてるよ」

隊長に紹介された時、嘗め回すように見られたことを思い出し眉間にしわが寄る。
一通りの説明の後、公爵から出た言葉は「君・・・アラミスだっけ?綺麗な顔を
しているねぇ」と自分を何よりイラつかせる一言だった。

「・・・アラミス?どうした」
「顔、険しいぞ」

二人に声を掛けられて我に返る。

「いや、何でもないよ」
「・・・公爵と何かあったのか?」
「え?」
「何か言われたか?」
「男も女も見境なく、らしいからなぁ・・・」

他人事のようなポルトスの言葉に、首筋がぞっとする。
アトスがフォローするように肩を叩く。

「ま、今夜は大丈夫だ。公爵のお相手志願はゴマンといる」
「・・・そうだね。こっちはその度に警護が大変なんだけどね」
「ほら、噂をすれば」

公爵が一人の婦人を物陰に連れ出そうとしているのが見える。
まわりの羨望と憎悪の入り混じった視線を一身に受け、誇らしげに公爵の誘いに
乗る女を見て、馬鹿馬鹿しいと思いながらも任務なので仕方ない。
ちっ、と盛大に舌打ちをして動き出す。

「・・・私が行くか?」
「いいよ、僕が行くよ」

警護するように言われている以上、例え最中であろうとも身辺を見張らなくてはいけない。流石に間近で、という訳にはいかないがある程度の距離を取り、万が一にでも
危険が及ぶようなことが無いようとのお達しだった。

幹に寄りかかり、神経を集中させると興味ない他人の睦言が漏れ聞こえて、
不快極まりない。あの月より美しいだの、国に連れて帰りたいだの、勝手にしろと
心の中で呟いて早く終わらないかと願う。

その時、ふと人の気配を感じた。2人、いや3人。
辺りに目を凝らすと同時に刃物を持った男が茂みから飛び出してくるのが見えた。

一足飛びに二人の前に出ると、賊の刃が腕をかすめ、ちりっと痛みが走る
闇夜に光る刃を見た二人は、事態に気がつき声を失っているようだ。

「逃げてください。早く!」

婦人はドレスを撒くりあげ、髪を乱しながらも灯りのあるほうに走り出した。
しかし、公爵は動かず賊を正面から睨みつけている。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

異国の言葉で、公爵と賊が会話している。
何を言っているのか正確に聞き取ることはできないが、おそらく愉快な話では
ないだろう。優雅な公爵に似合わず、厳しい口調で相手の恫喝に応えている。

「・・・ここは私が片付けます。公爵も早くお逃げください」
「いや、彼らの標的は私だ」
「だからこそ、早く」
「相手は3人だぞ?君1人では無理だ」
「問題ありません」

剣を構え、相手を見据える。おそらくそれなりの手練の3人だろう。
間合いを詰め剣を交えるが思いのほか手強い。
1人の足を止めることは出来たが、残り2人に手こずっていると茂みに
足を取られ、バランスを崩した。

まずい、と思い身構えたが呻き声を上げたのは賊の方だった。

「・・・アトス!」
「大丈夫か?アラミス」
「ああ、助かったよ」

頼りになる友人の救援にふぅ、と息をつく。
賊を捕縛し、厳しい顔をしたままの公爵に訊ねる。

「この3人はどうしますか?公爵の国の人間のようですが・・・」
「・・・我国に送還する。迷惑を掛けた」
「いえ、ご無事で何よりです」
「血が・・・」
「かすり傷です。気になさらずに」

腕の皮数枚が切れた程度で、すぐに血は止まるだろう。
特に気にせずに賊をアトスに任せて公爵をまずは安全な場所に誘導しようとすると
腕を取られ、傷口を舐め上げられた。

「・・・!何をするのです」
「余りにも魅惑的だったので」
「・・・悪い趣味です。お放しください」
「このまま、私の部屋に行きましょう。手当てをしなくては」
「公爵、戯れはお止めください」
「私は真剣ですよ?」
「だったら・・・尚更お止めください」

掴まれた腕がいつの間にか腰に回され、吐息が掛かるほど近い距離で
目を合わされる。甘い香りに一瞬クラリとなる。

冗談じゃない、と抵抗するが意外な力で抱き留められ動けない。
当身でも食らわせるしかないか、と構えた所で低い声が後ろから掛かる。

「私の友人を解放してもらえますか?」
「銃士のアトス殿?だったかな」
「はい。・・・彼の手当ては私がします、ご心配なく」
「・・・君が?」
「はい。それに、公爵を待っている御婦人がまだ沢山おります」

戒めが緩められると同時に、アトスにぐいと引っ張られ自由の身となる。

「この国は美しい人が多い」
「・・・公爵、護衛の者が来たようです。宴の場にお戻り下さい」
「そうしましょう。・・・アラミス殿」
「・・・はい」
「また、逢いましょう」
「・・・」

華のような微笑を残して、公爵は去っていった。


**********


「・・・アラミス」
「なに?」
「いくら何でも公爵に当身はまずい」
「・・・そうだね。助かったよ」
「腕は大丈夫か?」
「ああ、大した傷じゃない。ただ・・・」
「?」
「公爵に舐められた」
「・・・!!」
「・・・気色悪い話だよね」
「・・・水のある所に行こう」
「え?」
「この先に泉があったはずだ。きちんと消毒したほうがいいだろう」
「・・・ほんとすり傷だから」
「駄目だ。行くぞ」

ぐいぐいと腕を引かれ、アトスらしくないなぁと見上げると不機嫌そうな顔で
けど、どこか真剣な表情が可笑しくてついつい笑ってしまった。







直線上に配置

幕間の話はなるべくアニ三からキャラ設定がずれないように
しているつもりなのですが、アラミスこんな性格だったっけ??

公爵はあの公爵で想像。けどそうじゃなくても可。

前半のどこかで公爵のたらしっぽいエピと
ほんのりアトアラな話があってもよかったのに〜と
おもったりしたので作ってみました。

ちょっと突貫でした





inserted by FC2 system