「つっ・・・!」 痛みに思わず顔がゆがむ。 首飾り事件が解決して1ヶ月。敵から銃をうけた傷は完治していなかった。 おそらく日常生活には支障のない程度には治ってきているのだろうが、剣をふるうことが日常となってしまっている彼女にとっては、それは充分なものではなかった。 さすがに剣術師範の役目はしばらくはずしてもらい、しかし剣の腕がにぶらないようにとアトスに相手をしてもらっているのだが、どうも思うように体のバランスが取れない。その上思い切り打ち込むと左肩に激痛がはしる。 「そんなに力を入れるな。治りが遅くなるだけだぞ」 「ああ、わかってる」 「焦ることはない。今回のことでリシュリューも当分はおとなしくしてるだろう。 しばらくは平穏な日が続くさ」 そう、おそらくリシュリューや護衛隊ともめることはしばらくは無いだろう。しかし彼女の真の目的は銃士として陛下やアンヌ王妃を守ることではなかった。 もし明日、仇が誰なのかわかったら・・・その時に充分に戦えなければ困る。 彼女焦っていた。早く元のように戦えるようにならなければ・・・と。 「焦るなと言っているのに、本当に君は人の忠告を聞かないな」 稽古を終え、休憩室に戻ったアトスは呆れたと言わんばかりで水を渡す。 傷の痛みは疲労を進め、アラミスはぐったりと長椅子に横になったまま動けないでいた。 「明日戦わなければいけない相手がいるわけでもなし・・・」 「・・・」 それには応えず水を飲み干す。冷たい感触が喉を通り息をつく。 「確かに銃士である以上、いつどこで敵があらわれるかわからない。だがその時は私たちに頼ればいいんだ。そのための仲間ではないのか?」 「ああ、そうだね。」 まるで気の無い返事をしてアラミスは部屋から出て行く。その後ろ姿をアトスは見送りながらこれは駄目だな、と小さくつぶやいた。 ------------ 仇討ちを誰かに変わってもらうってことか?冗談じゃない。これは私の問題だ。 誰にも頼る気はないし、手を出されたくなかった。 それはまるで、フランソワと自分の間の誰にも入り込めない絆。 それを汚されるような感覚を彼女は覚えていた。 |