「ふふっ、貴方、女に頬を打たれたの?」 「人の手紙を読むとは、趣味が悪いな」 「あら、失礼。けど可笑しくてつい・・・ "欲望をこらえることができなかった私をお許しください"ねぇ・・・」 「多少乱暴に進めてしまったからな。頬一つくらいはまぁ許してやるさ」 「許しを請うてるのは貴方のほうじゃなくて?」 「まさか」 男は気だるげに、傍に置いてあったワインと鹿肉に手を出し、 裸体を晒したままの女にグラスを差し出した。 「ありがとう。頂くわ」 女は手紙に視線を落としたまま、艶やかな指でグラスを受け取る。 「この娘さん、随分と貴方に夢中みたいね・・・」 「まぁね」 「貴方も意地悪ねぇ。森に手紙を取りに行く時間くらい、何てことないでしょう」 「焦らされる経験も悪くないだろう」 「まぁ・・・」 心底呆れたような声だったが、どこか愉快さが含まれている。 男とのつきあいが短くない女は、「相変わらずねぇ」とだけ言い、同じく鹿肉を口に運んだ。 ***** その訪問客に、ルネは体いっぱいに喜びを現し朝早くから準備をしていた夕餉を男に振舞った。 伯父の秘蔵だというワインも、こっそり用意し愛しい人の喉が波打つのを、 まるで夢見るように見つめていた。 「ルネ?君は飲まないの?」 「え、ええ。私はいいわ・・・」 「そう、じゃあせめて食事だけでも一緒に取らないかい?」 「そ、そうね」 自分の姿に見惚れ、ちっとも食が進んでいない彼女に可笑しそうに男は声を掛けた。 少し形の崩れた甘すぎるオムレツを口にすると、また動きが止まり、 自分の反応を探るように、蒼の瞳が揺れていた。 「・・・何だい?」 「美味しい?」 「ん、美味しいよ。君が作ってくれたのかい?」 「ええ!本当に美味しい?」 「美味しいよ」 そう言って微笑むと、ルネは満足したように笑顔を浮かべた。 安いものだな、と心の中でつぶやく。 やがて食事も終り部屋の中を見回した男は、彼女が書き損じたと思われる手紙を見つけた。 そこには、手紙の返事がない男に対する感情を荒くぶつけた言葉が書き綴られていた。 「ルネ・・・この数日のことは本当に申し訳なかった」 「えっ、やだその手紙っ!」 真っ赤になって手紙を男の手から取上げようとする柔らかい手を逆に握り返すと、その腰をかき抱いた。 そのまま深く口付ける。 今までの、森でのそれとは違う男の熱さに、ルネは体を固くし 抵抗するが、男は構わず更に柔らかな唇をこじ開けた。 舌が侵入してくる感覚に、びくりと体が跳ね上がった。 そのまま寝台に押し倒されたが、荒々しく手首を捻り上げられ、太ももを割られる感覚に 彼女はただただ身を震わすことしかできなかった。 ***** 「ルネ・・・」 そっと肩を抱く腕が払われ、パン、と乾いた音が響いた。 打たれた頬をそのままに相手を見やると目に涙を浮かべ、唇を噛み締めていた。 「・・・今日は帰るよ」 すっと体を離し、着衣を整えるとフランソワは館を後にした。 窓から自分の姿を目で追う彼女の気配を背中に感じ、心地よい酔いの残る体を馬上で揺らしながら・・・ |