9月なので、アトスとアラミスがだらだらと会話をし続ける話を
書いてみようとおもいました。あんまりアトスは幸せじゃないかも・・・










「ねぇ、明日で何歳になるんだっけ?」
「・・・」

何を今更聞いてるんだ?といわんばかりにアトスは視線を起こす。
一瞬合った目をわざとはずし、窓の外を眺めるとオレンジ色の夕陽が
パリの街を染め始めていた。

勤務終了の鐘がそろそろ鳴る頃。
小さく欠伸をして、窓際の桟に肘をつく。

呆れたように、アトスはまた手元に視線を落とす。
いつも難しそうな本を読んでるけど、何がそんなに面白いんだろう。

そういえば彼もよく本を読んでた。
ぼんやりとその面影を記憶の中に追っていると、夕暮れが色濃く射し込み
そのシルエットが浮かび上がった。

記憶に引き摺られるとろりとした感覚に浸りそうになった瞬間、頭の中に不機嫌な声が響いた。

「亡き恋人殿はそんなに私に似ているか?」
「似てないよ。全然」

意地悪な質問に、そっけなく返事を返す。
人の心を見透かして、全部判っていて、そういう事を聞いてくる所は嫌いだ。

視線を落としたままのアトスを睨む。
言いたい事があるならちゃんと僕を見て言えばいいのに、相変わらずこちらを見ようとしない。

カツンと、靴音を立ててアトスの傍に寄ると、やっと菫色の瞳が静かに動いた。

「何が気にいらないんだ?」
「・・・アトスのそういう所」
「私の?」
「僕に聞きたいことがあるなら、聞けばいいだろう?」
「・・・特に無いが?」
「・・・」
「私は、君の過去にそれほど興味はないからね」

小さく絶句し言葉を返そうとしたが、沸き起こる怒りに上手く呂律が回らない。
涼しい顔をしたまま、手元に視線を戻そうとするアトスの腕を叩き、
床に落ちた本を思い切り蹴り飛ばした。

「僕だって!君の歳になんか興味ないよ!!」

それだけやっと言うと、踵を返して部屋を出た。
泣きそうになる自分が情けなくて早足に廊下を進んでいくと、アトスの言葉が頭の中を
ぐるぐると渦巻いてきた。

"興味がない"って、それって僕のことを何とも思ってないってことじゃないか・・・

辿り着いた窓から体を出して、外の空気を思い切り吸い込むと、
震えていた唇がすこし落ち着いたと同時に、自分の頬が濡れていることに気が付いた。

仇討ちを果たしてからずっとこうだった。
夏が終わる。季節は秋に変わる。
それだけのことなのに、その変化に戸惑いを覚える。

目的を果たした後も季節は進むし、世界が終わるわけでもない。
銃士隊は日常の責務をこなし、友人たちは前と変わらずに接してくる。
当たり前のことなのに、それが気に入らない。

ほたほたと涙が零れ続ける。
昂ぶった感情を抑える術が見つからず、顎を上げて瞬き始めた星を見上げていると、
聞き慣れた靴音が耳についた。

「ずいぶん行儀の悪いことだ」
「・・・」
「本を蹴っとばしてはいけない、と婚約者殿は教えてくれなかったのか?」
「・・・!アトス!!」
「何だ?」
「僕の過去になんか、興味ないんじゃなかったの!?」
「ああ、無いな」
「だったら・・・」
「だったら?」

相変わらずのアトスの態度に、自分の感情の矛盾に、言葉が詰まったまま動けなくなる。

「・・・もう二度とフランソワの事を口にしないで」
「承知した」

踵を返し、聞き慣れた足音が遠ざかっていく。
心もとない月あかりが手元を照らし始めていた。





・・・ダルの話に続きます



アトス、相当不機嫌です。
けどフラさんの事を知ったら、アトスってけっこう不愉快になりそうな
気がするんですが、どうでしょうね・・・









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